更新日:2025年05月26日
鏡で自分の姿を見たり、シャンプーやスタイリングで髪を触ったりしたときに「髪が薄くなった」と感じた経験のある方もいるのではないでしょうか。薄毛は男女ともに起こりえますが、その原因や症状は人によって異なります。
本記事では、考えられる薄毛の原因と具体的な症状を解説します。薄毛の改善や予防に役立つ対処法も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
男性・女性の薄毛の原因はさまざまであり、男女共通のものもあれば、男性・女性のそれぞれに多い原因もあります。以下では、薄毛の原因として考えられるものを紹介します。さまざまな原因を知り、自分の薄毛がなぜ起こっているのかを考えてみましょう。
薄毛は体内で分泌されるホルモンの影響によって起こりやすくなります。主なものは、男性ホルモン・女性ホルモンのほか、身体の成長や新陳代謝を促す成長ホルモンです。それぞれのホルモンがどのように影響し、薄毛を引き起こしているのかを以下で見ていきましょう。
男性ホルモンは、男性型脱毛症(AGA)に大きくかかわる要素です。 男性ホルモンの1つである「テストステロン」は「5αリダクターゼ」という酵素と結びつくことで、「ジヒドロテストステロン」に変わります。ジヒドテストステロンは、髪を作る「毛包」にある男性ホルモン受容体と結びつき、毛母細胞の働きを低下させます。その結果、毛髪の成長期が短くなり、髪が十分に成長しないまま抜け落ちてしまうという仕組みです。毛包は小さくなり、髪は細く柔らかくなってしまいます。
AGAは、以上のメカニズムで薄毛や抜け毛が進行します。
女性ホルモンの減少も、薄毛・脱毛の原因となりえます。女性ホルモンは髪の成長やツヤ・ハリなどに大きく影響しているためです。女性ホルモンの「プロゲステロン」は髪の成長期を維持する働き、「エストロゲン」は髪の成長を支え美しく保つ働きがあります。しかし、女性ホルモンはいずれも40歳前後から減り始め、更年期を迎えると急激に減少します。そのため、年齢を経るごとに薄毛や抜け毛が起こりやすくなるといえるでしょう。
加えて、出産後に抜け毛が増える「分娩後脱毛症」も、女性ホルモンが急激に減少することで起こります。抜け毛は産後3か月から6か月頃にとくに多い傾向がありますが、1年ほどで自然に元のヘアサイクルを取り戻し、徐々に改善されることが一般的です。
睡眠中に多く分泌される成長ホルモンも、髪の成長のために不可欠です。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、約90分のサイクルで繰り返しています。レム睡眠とは、身体が休んでいるものの脳は活発に動いている状態、ノンレム睡眠は脳も身体も休んでいる状態です。
成長ホルモンは、入眠して最初に訪れるノンレム睡眠の間に多く分泌されるといわれています。正常な新陳代謝やヘアサイクルを保つためには、より深い眠りにつけるよう心がけることが必要です。
栄養不足や血行不良は、髪の成長を妨げる原因です。
髪の材料となるタンパク質や、タンパク質を髪に変える働きを持つ亜鉛などのミネラルが不足すると、髪は正常に成長できません。また、体内でエネルギーが不足すると、髪となるはずのタンパク質がエネルギーに変換されて消費されます。十分なタンパク質が髪に届くよう、エネルギー源である糖質も摂りましょう。
血行が悪いと頭皮や髪に必要な栄養が行き届かなくなり、食事に気をつけていても栄養不足となる可能性があるでしょう。老廃物も排出できず蓄積されてしまうため、薄毛・抜け毛やフケの原因となる恐れがあります。
髪・頭皮のダメージや過剰な負担も、薄毛・抜け毛のよくある原因です。パーマやカラーに使う薬剤は強い成分を含むものが多く、頻繁に施術を受けると大きなダメージとなります。日々浴びている紫外線も髪や頭皮の負担となるため、帽子や日傘などでの対策が大切です。加えて、洗浄力の強いシャンプーや落ちにくい整髪料なども髪や頭皮の負担になるため、マイルドな洗浄力のシャンプーや簡単に洗い流せる整髪料を使用するとよいでしょう。
薄毛のなかでもAGAは、とくに遺伝的な要素が大きいといわれています。5αリダクターゼの活性度の高さや頭皮でジヒドロテストステロンと結びつく男性ホルモン受容体の多さは、遺伝しやすいとされるためです。
一方で、女性の薄毛はAGAとは異なるメカニズムで起こるとされており、遺伝的な要素は少ないと考えられています。しかし、親の生活習慣の影響を受けることで、薄毛を招く生活習慣が身についている可能性もあるでしょう。「遺伝で薄毛になっているのではないか」と思っている女性の方は、生活習慣を見直すことで改善できる場合もあるかもしれません。
病気や薬によって、薄毛が起きる場合もあります。甲状腺機能亢進症や膠原病など、抜け毛が症状の一つである病気もあります。また、抗がん剤などの薬剤の使用により、副作用として抜け毛を引き起こすことがあります。
薄毛や抜け毛などを引き起こす脱毛症には種類があります。主なものは、以下の6つです。
それぞれどのような症状なのか見ていきましょう。
AGA(男性型脱毛症)は、主に男性ホルモンの影響による脱毛症です。生え際から進行するA字(U字)型、M字に脱毛するM字型、頭頂部から脱毛するO型など、症状には種類があります。初期症状も、「毛量が減って薄毛になる」「抜け毛が増える」「髪が細く柔らかくなる」などさまざまです。AGAは自然治癒しないため、改善するためには医療機関での治療が必要です。
びまん性脱毛症の特徴は、一部だけでなく頭部全体の髪が薄くなることです。少しずつ髪全体のボリュームが減っていくため、初期段階では気づきにくいかもしれません。
40代以降の女性に多い脱毛症ですが、男性にも起こることがあります。進行性の脱毛症であるため、びまん性脱毛症の疑いがある場合は早めの医療機関の受診がおすすめです。
円形脱毛症は「10円ハゲ」と呼ばれることもあるように、頭に円形の脱毛が起こることがあります。ただし、楕円形の脱毛である場合や脱毛箇所が複数発生する場合、頭部全体や全身で脱毛が起こる場合もあり、症状は人それぞれです。
円形脱毛症の原因は解明されていませんが、免疫機能の異常によって自分の体の一部を異物として排除しようとする「自己免疫応答」によって発生すると考えられています。自然に治ることも多いものの、範囲が広がったり長期間続いたりする場合は、医療機関で受診した方がよいでしょう。
牽引(けんいん)性脱毛症は、ポニーテールなどの髪を強く引っ張るヘアスタイルや、ヘアエクステンション(付け毛)による頭皮への負担などによって起こります。髪を強く引っ張ると抜けてしまうことも多いものです。また、頭皮の毛根部の血流が悪くなるため十分な栄養が届きにくくなり、抜け毛や薄毛を引き起こす可能性があります。
牽引性脱毛症は、多くの場合で髪や頭皮への負担を和らげることで改善が期待できます。負担のかかるヘアスタイルをするなら、「家に帰ったらすぐにほどく」「頭皮マッサージをとり入れる」などの対策が大切です。ヘアスタイルにバリエーションを持たせて、毎日同じヘアスタイルをしないようにすることも有効です。
ひこう性脱毛症は、かゆみや乾燥したフケを伴う脱毛症です。原因の例として、洗浄力の強いシャンプーによって必要な皮脂まで洗い流してしまい、頭皮が乾燥することが挙げられます。フケが気になるからといって洗いすぎたり、さらに洗浄力の強いシャンプーを使ったりすることで、悪化することもあります。「整髪料を十分に落とせていない」「整髪料が髪や頭皮に合っていない」などの状態も、頭皮環境を悪化させる原因です。
ひこう性脱毛症が疑われる場合は、医療機関で受診しましょう。必要に応じて内服薬や塗り薬の処方を受けられます。自己判断で塗り薬を使うことは、悪化する恐れがあるため避けましょう。
皮脂が過剰分泌されることで起こる脂漏性脱毛症は、かゆみやべたつきのあるフケが発生しやすくなります。原因は、不規則な生活やストレス、乱れた食習慣といわれており、とくに脂質の摂り過ぎには注意が必要です。頭皮の皮脂分泌が過剰になると、頭皮に存在する常在菌である「マラセチア」が過剰に繁殖してしまい、症状が悪化することもあります。
皮脂を落とそうと洗いすぎると悪化することもあるため、脂漏性脱毛症と考えられる場合は医療機関で受診しましょう。状態によって、かゆみ・炎症を抑える塗り薬や、治療用のシャンプーを処方してもらえます。
「日常生活を送る中で薄毛が気になる瞬間がある」という場合は、できることから対策しましょう。日頃から気をつけることで、さらなる進行を予防できる場合もあります。以下では、薄毛対策・予防に役立つ5つの方法を紹介します。
まずは日頃の生活習慣を見直しましょう。髪は食べたものからできるため、バランスの良い食事をとることが大切です。髪の材料となるタンパク質やミネラルは大切ですが、栄養が偏ることも好ましくありません。さまざまな食材をバランス良く摂ることを心がけましょう。
睡眠の時間や質も、髪や頭皮にとって重要です。成長ホルモンが分泌されるノンレム睡眠の質を上げられるよう、睡眠前に食事やスマートフォンの操作をしないようにしましょう。就寝・起床の時間はできる限り毎日同じにすることで生活リズムが整い、自律神経も正常に働きます。
髪の洗い方や乾かし方、使用するシャンプーなども見直してみましょう。十分にシャンプーを泡立て、爪を立てずに指の腹で優しく洗うことが大切です。加えて、すすぎ残しがないようにしっかりと洗い流します。ドライヤーは髪から10〜15cm離し、同じ箇所にあて続けないようにしましょう。シャンプーのときに頭皮マッサージをすることも、血行促進に役立つためおすすめです。
適度に運動することも、髪にとってよい影響を及ぼします。血行がよくなるため、髪をはじめ身体の各部分に栄養が届きやすくなり、全身の健康にもつながります。ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動で身体を動かすほか、体操やストレッチなど室内でできることをとり入れてもよいでしょう。無理なくできることを選び、毎日少しずつでも継続的に行うと効果的です。
ストレスがたまらないよう、息抜きや趣味の時間を取ることも大切です。ストレスにより自律神経が乱れると、交感神経が優位になって血管が収縮するため、血行不良を招きやすくなります。ゆっくり過ごす時間を確保することが難しい場合は、「深呼吸する」「好きな飲み物を飲む」「音楽を聴く」など、ひと息つく時間を取ることも有効でしょう。
「抜け毛がひどい」「薄毛が気になって仕方がない」という場合は、薄毛治療のできる医療機関の受診がおすすめです。脱毛症の中には、医療機関で治療を受けなければ改善しないものもあります。医師に状態を診てもらい、自分の薄毛がどのような状態なのか、どうすればよいのかを聞くことで、安心できる場合もあります。薄毛が気になることによるストレスも軽減できるでしょう。
「近くに薄毛治療のできる医療機関がない」「知り合いに会うかもしれず不安」という場合は、オンライン診療を使う方法もあります。外出することなく医師の診察を受けられ、必要に応じて薬の処方も受けられます。状況に合わせてオンライン診療の利用を検討してみるとよいでしょう。
薄毛の原因は、ホルモンの影響や栄養不足・血行不良、頭皮へのダメージ・負担などさまざまです。遺伝が影響している場合や、薬や病気によって薄毛が起こることもあります。あらゆる原因を踏まえて、自分の薄毛はなぜ起こっているのか、どの症状に当てはまるのかを知ることで、対策もしやすくなります。生活習慣を見直すほか、場合によっては医療機関やオンライン診療で受診することも視野に入れましょう。
この記事の監修:
慶應義塾大学医学部卒業。日本形成外科学会認定専門医。 医師免許取得後、外資系経営コンサルティング企業のヘルスケア・IT領域にて従事。 慶應義塾大学医学部助教を経て、美容医療を主としたJSKINクリニック、及びオンライン診療サービス「レバクリ」監修。
<所属学会> 日本形成外科学会 日本美容外科学会(JSAPS)