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更新日:2024年07月24日

創価女子短大・青野ゼミにおける「生理の貧困」に対する取り組み

本記事では、SDGsにおける社会課題の解決を図る研究のなかで、「生理の貧困」に焦点を当てて活動した大学のゼミについてご紹介します。

世の中の多くの女性が、生理に関連することで悩んだ経験を持つのではないでしょうか。生理にまつわる問題のなかでも、「生理の貧困」に関する問題への取り組みはSDGsの目標の一部にも該当し得ることです。これらの課題解決を目指す大学のゼミの取り組みに、ぜひ目を通してみてください。

実践を通してSDGsを学ぶ創価女子短期大学・青野ゼミ

創価女子短期大学の青野ゼミでは、「女性のエンパワーメント」をテーマに掲げ、SDGsにまつわる社会課題を実践的に学んでいます。 sdg_poster_ja_2021_page-0001.jpg

そんな青野ゼミでは、2021年に「生理の貧困」に関する取り組みを実施。その翌年には、「生理休暇の普及」をテーマに活動を行いました。

それぞれの活動について詳しく紹介します。

「生理の貧困」という社会課題に対する取り組み

創価女子短期大学の青野ゼミは、「生理の貧困」に着目し、生理用ナプキンの無料ディスペンサー「OiTr」の設置を大学に提案。その後、2021年11月に関東の女子大・女子短大で初めてOiTrの導入が実現しました。

誰もが生理用品に十分にアクセスできる環境を目指して

学生たちは、ゼミナールの研究活動の一環として、「都民による事業提案」へのチャレンジに取り組んでいました。「都民による事業提案」とは、都民が都政に対して事業を提案できる制度で、従来の発想に捉われない新たな視点から、都政の課題を解決することを目的として実施されています。

SDGsに関する社会課題を調べている際に学生たちが発見したのが「生理の貧困」という課題でした。「生理の貧困」とは、経済的な理由などで生理用品に十分にアクセスできない状況のことをいいます。この課題を解決するために、提案内容の検討を重ねる中で、生理用ナプキンを無料で提供できるサービス「OiTr」に出会い、東京都の女子大・女子短大に設置することを提案しました。

この取り組みは、SDGsの目標である「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」「すべての人に健康と福祉を」「安全な水とトイレを世界中に」に貢献するといえるでしょう。さらに、生理の有無に関わらず生理用品が生活必需品であると理解することで生きやすい世の中になり、SDGsのスローガンである「誰も置き去りにしない(leave no one behind)」にもつながるという思いもあったそうです。

関東の女子大・女子短大で初の「OiTr」(生理用品の無料ディスペンサー)導入を実現

学生たちは、「都民による事業提案制度」を活用して、東京都に対して「OiTr」を東京都の女子大・女子短大に設置することを提案。残念ながら、結果としては不採択になりました。

しかし、まずは自らが通う創価女子短大から「生理の貧困」をなくし、コロナ禍において学生が安心して学業に専念できる環境を学生が中心となり作っていこうとの思いから、短大に対して上記の提案を実施。「学生第一」を掲げる同大学では、関係者間で協議しながらこの問題に取り組み、2021年11月に学内での「OiTr」の設置が実現したのです。

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▲学内のトイレに設置された「OiTr」(画像提供:創価女子短期大学)

こうした活動は、同大学内への「OiTr」の設置を起点とし、多方面で注目されることになります。公益財団法人・東京富士美術館(SDGs 委員会)との意見交換をきっかけに、学生がOiTrの設置経緯などをアドバイスする中で、同美術館において、全国の美術館で初の「OiTr」の設置が決定。2022年1月には、タウンニュース八王子でも学生の活動が大きく紹介されました。

学生たちも、自ら「生理の貧困」に関するYouTube動画を制作し、普及啓発活動を実施。このような一連の取り組みが、2022年3月に「人生100年時代の社会人基礎力大賞」の受賞に結びつきました。同賞は、一般社団法人社会人基礎力協議会が主催した社会人基礎力育成グランプリにおける日本一の賞です。

「生理の公平」という社会課題に対する取り組み

「生理の貧困」に関するこれらの活動を受け、翌年度には「都民による事業提案」での採択を目指して活動をスタート。新たに「生理休暇の普及」をテーマに、生理休暇の取得率向上という課題に取り組むことになりました。

生理休暇の取得率の低さに着目

2022年度には、前年度の「生理の貧困」に関する活動を踏まえて、新たにSDGsの目標にある「働きがいも経済成長も」および「住み続けられるまちづくりを」に着目し、その目標に該当する街づくりをしていくために何をするべきなのか考え研究調査を始めました。

このような挑戦をするにあたり、前年度の「生理の貧困」に関する課題をさらに深堀りできないかと考えていく中で浮かび上がったのが「生理休暇の普及」でした。この社会課題を追究するなかで注目したのが、労働基準法第68条に定める「生理休暇(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)」の取得率の低さです。

厚生労働省の調査によると、生理休暇は労働基準法で認められている権利であるにも関わらず、その取得率は0.9%であることが分かりました。生理休暇を導入している企業そのものが少ないほか、上司が男性であるため利用しづらい空気があることやこの休暇が無給である企業が多いことなども取得率の低さの理由とされています。

女性が健康を保ちながら働ける職場環境を推進するためには、生理をはじめとする女性特有の健康課題について普及啓発が必要だと感じたことから、「生理休暇」の取得率向上を目指し、「働く女性の健康に関する普及啓発」という考え方を軸に事業提案することを決断したのだそうです。

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▲提案した事業の内容(画像提供:創価女子短期大学)

提案した「働く女性のウェルネス向上事業」が都の予算案に計上

「生理の貧困」をなくし、「生理の公平」を実現するために、2022年6月に「働く女性のウェルネス向上事業」を都民による事業提案制度で提案。都民提案として計684件の事業提案が寄せられた中から、都民投票の結果、得票第2位(得票数2,259)でこの提案が採択されました。

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▲都民提案表彰式の様子(画像提供:創価女子短期大学)

そして、2023年度の東京都の予算編成において、「女性の活躍促進」を図るものとして4,900万円の予算案が盛り込まれることになりました。東京都(産業労働局)では、働く女性の心身の健康を向上させていくための特設サイト「働く女性のウェルネス向上委員会」を立ち上げ、女性の健康課題別体験談や企業の取り組み事例をはじめ、専門家コラムや短編動画などが掲載され、女性特有の健康課題を知って学ぶことができる内容となっています。

また、学生たちは「大学コンソーシアム八王子の学生発表会」にも挑戦。この発表会は、八王子市の大学コンソーシアムに加盟する25大学等に通う学生が、研究成果やアイデアを発表し、産学連携および地域活性化につなげることを目的に開催されるものです。

この発表会では、自らが住む八王子市内の女性や中高生に向けて、「八王子市内のOiTrの普及」「生理休暇取得率向上の取り組み」「中学・高校生も含めた女性が住みやすい街づくり」の3点を提案しました。その結果、「八王子市長への直接提案セッション」において、奨励賞を受賞することができました。

ゼミの今後の展望

2024年6月に発表された、「世界経済フォーラム(World Economic Forum)」が世界各国における男女格差のデータをもとに作成した報告書「Global Gender Gap Report(世界男女格差報告書)」によると、日本のジェンダー・ギャップ指数は146カ国中118位でした。政治分野においては146カ国中113位、経済分野は120位と、世界的にも下位にあるという結果です。これらの数値は、日本国内における国会議員や閣僚、管理的職業従事者の男女比、同一労働における男女の賃金格差などのさまざまな課題を表しています。

ゼミを担当する創価女子短大の青野健作准教授によると、「生理の貧困」に悩む女性にとって住みやすい社会を構築するためには、先述した男女の格差解消が鍵になるのではないかということです。「生理の貧困」を個人の経済的な事情とせず、社会全体で取り組んでいくべき社会課題として認識し、政府や自治体、教育機関、個人などを幅広く巻き込んで、SDGsの目標17にある「パートナーシップで目標を達成」を目指すことが望ましいと、同氏は自身の論文の中で述べています(※参考)。

その実現のためには、SDGsを推進する「まちづくり」を行い、社会課題の解決を図る一人ひとりを育成するための「教育」が必要になります。同ゼミでは、今後もSDGs達成に向けた実践を通してSDGsを学びながら、女性が生き生きと働ける社会の実現を目指しています。

⑤今後について(現在のゼミ生).jpeg

▲青野准教授とゼミ生(画像提供:創価女子短期大学)

※参考:青野 健作, 「生理の公平」とSDGs, 創価女子短期大学紀要 2024, 55, p.35-62