更新日:2024年03月13日
薬剤性EDとは?原因となりやすい薬や治療方法を解説
- 薬剤性EDとは、服用している薬が原因で起こるEDのこと
- 薬剤性EDの原因となる薬は、降圧剤や精神神経薬など
- 薬剤性EDを改善するには、原因となっている疾患の治療や治療薬の減薬などが有効
- 薬剤性EDの原因の改善には、生活習慣の見直しも重要
「病気の治療薬を飲みはじめてから、勃起がうまくできない…」。このような悩みを抱えている方は、薬剤性ED発症している可能性があります。
薬剤性EDとは、治療のために服用している薬が原因となり発症するEDです。降圧薬や抗うつ薬、抗潰瘍薬などの薬剤が原因となる場合があります。薬剤性EDは多くの場合、適切な治療を受けることで改善が期待できます。自己判断で薬の服用を中止したり服用量を減らしたりすると、症状が悪化したり病気の治療が遅れたりする可能性があるため、医師に相談することが大切です。
本記事では、薬剤性EDの原因となりやすい薬や、治療方法について解説します。薬剤性EDの悩みを抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
薬剤性EDとは
薬剤性EDとは、服用している薬の副作用が原因で起こるEDです。
勃起は、性的刺激によって興奮し、陰茎の海綿体に血液が送り込まれることで起こります。薬剤性EDを引き起こす薬は、陰茎海綿体の血管を収縮させたり、神経伝達物質の働きを阻害したりして、勃起を妨げるとされています。
EDについて詳しく知りたい方は、「EDとはどんな症状?原因別の治療方法からセルフケアについても解説」も参考にしてみてください。
薬剤性EDの原因となりやすい薬
ここからは、薬剤性EDの原因となりやすい薬を種類別に解説します。
降圧剤
降圧剤は、高血圧の治療薬として広く使用されている薬です。降圧剤には利尿薬やβ遮断薬などがあり、尿量を増やすことで血圧を下げたり、神経の働きを抑えて血圧を下げたりします。
降圧剤には、主に以下の種類があります。
- 利尿薬(サイアザイド系、スピロノラクトン)
- β遮断薬
- カルシウム拮抗薬
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
- アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
これらの薬が、陰茎への血流を減少させたり、勃起を促す神経伝達物質の働きを抑制したりすることでEDを発症する可能性があると考えられています。特に、利尿薬やβ遮断薬、カルシウム拮抗薬については、他と比べてEDが発症しやすい傾向があると報告されています。
精神神経薬
精神疾患や神経疾患の治療に用いられる精神神経薬は、EDを引き起こす可能性があります。
精神神経薬によるEDは、以下の薬剤で起こりやすいとされています。
- 抗うつ薬 (三環系抗うつ剤、 SSRI MAO阻害薬)
- 抗精神病薬(フェノチアジン系、 プチロフェノン系、スルピリド、その他)
- 催眠鎮静薬(バルビツール系)
抗うつ薬はセロトニンの濃度を上昇させる作用があり、ドーパミンやノルアドレナリンなどの作用を抑制し、性機能も低下させる可能性があります。セロトニンが末梢神経系の感覚を低下させることがEDにつながるという指摘もあります。
また、抗精神病薬に見られる副作用として、高プロラクチン血症があります。高プロラクチン血症とは、脳下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンの分泌が過剰になり、血中のプロラクチンの値が高くなっている状態を指します。
男性が高プロラクチン血症になると、性欲減退や勃起不全を引き起こすとされています。
抗うつ剤とEDの関係性については、「抗うつ剤でEDになる?その理由と対策を解説」でも詳しく解説しています。
男性ホルモン抑制剤・抗アンドロゲン剤
男性ホルモン抑制剤・抗アンドロゲン剤は、男性ホルモンであるテストステロンの分泌を抑制する薬です。主に、前立腺がんや男性型脱毛症(AGA)などの治療に用いられます。
男性ホルモン抑制剤・抗アンドロゲン剤に該当する主な薬剤は、以下のとおりです。
- エストロゲン製剤
- 抗アンドロゲン薬
- LH-RHアナログ
- 5α還元酵素阻害薬
男性ホルモンのテストステロンは、性欲や勃起に重要な役割を果たしています。そのため、テストステロンの分泌を抑える薬を服用すると、性欲や勃起の低下につながる可能性があります。 特に、高用量の男性ホルモン抑制剤・抗アンドロゲン剤を服用している場合は、EDのリスクが高まります。
抗潰瘍薬
抗潰瘍薬は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療に用いられる薬です。例として、シメチジンなどのH2ブロッカー(H2受容体拮抗薬)が挙げられます。 H2ブロッカーは、胃酸の分泌を促進するヒスタミンの作用を抑制することで、胃酸の分泌を抑えます。
しかし、ヒスタミンには血管を拡張させ血流を良くする働きがあります。そのため、H2ブロッカーがヒスタミンの作用を抑えることにより、陰茎の血流にも影響を与え、EDにつながる可能性があるとされています。
脂質異常症治療薬
脂質異常症治療薬は、コレステロールや中性脂肪を下げるために服用する薬です。 脂質異常症治療薬には、副作用としてEDを引き起こすものがあります。メバロチンやリポバス、クレストールなどのスタチン系と、ベザリップやリピディルなどのフィブラート系薬剤には注意が必要です。
脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が、基準より多い状態を指します。進行すると、動脈硬化につながる恐れがあり、陰茎への血流が減少しEDを引き起こすことがあります。
呼吸器官・アレルギー用剤
呼吸器官・アレルギー用剤は、薬剤性EDの原因となるものがあります。原因となる主な薬剤は、以下のとおりです。
- ステロイド剤
- テオフィリン
- β刺激薬・抗コリン薬
- 抗ヒスタミン薬 (クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン)
- プソイドエフェドリン
抗コリン薬は、副交感神経の働きを抑制する作用があるため、陰茎の勃起を抑制する場合があります。また、抗ヒスタミン薬のアレルギー反応を抑制する働きにより、勃起に必要な神経伝達物質の働きが抑制される可能性があります。
これらの呼吸器官・アレルギー用剤は、陰茎への血流を減少させ、EDの症状を引き起こすとされています。 以下に、EDを引き起こす可能性のある薬剤をまとめます。
薬剤の種類 | 主な薬剤 |
---|---|
降圧剤 | 利尿剤(サイアザイド系、スピロノラクトン)、カルシウム拮抗剤、β遮断剤 |
精神神経薬 | 抗うつ薬 (三環系抗うつ剤、 SSRI MAO阻害薬)、抗精神病薬(フェノチアジン系、 プチロフェノン系、スルピリド、その他)、催眠鎮静薬(バルビツール系) |
ホルモン剤 | エストロゲン製剤、抗アンドロゲン薬、LH-RHアナログ、5α還元酵素阻害薬 |
抗潰瘍薬 | シメチジン |
脂質異常症治療薬 | スタチン系、フィブラート系 |
呼吸器官・アレルギー用剤 | ステロイド剤 、テオフィリン、β刺激薬・抗コリン薬 、抗ヒスタミン薬 (クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン)、プソイドエフェドリン |
薬剤性EDの治療方法
ここでは、薬剤性EDを改善するためには、どのような治療方法があるのか解説します。
薬を服用している疾患の改善
薬剤性EDの原因となっている疾患の改善により、EDの改善が期待できます。 たとえば、精神疾患が改善し、薬剤性EDの原因となりやすい抗うつ薬の服用を止めれば、EDの症状の改善が見込めるでしょう。
薬を服用している疾患の改善は、薬剤性EDの治療で有効な方法です。ただし、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病は、完治が見込めないこともあります。
薬の減薬
減薬や休薬によって、薬剤性EDの症状が改善する可能性があります。
しかし、自己判断での減薬や休薬は大変危険です。服用している薬によっては、減薬や休薬をしなくてもED治療薬と併用できる場合があるため、必ず医師に相談しましょう。
薬の変更
EDの原因となる薬を別の薬に変えることで、EDの改善が期待できます。薬を変更する場合も、かかりつけの医師に相談するようにしてください。
そのほかのED治療について詳しく知りたい方は、「EDの治療はどのように行う?ED治療にかかる費用や治療の流れも解説」も参考にしてみてください。
薬剤性EDの改善には生活習慣の見直しも重要
薬剤性EDの改善には、原因となる疾患の治療と合わせて、生活習慣の見直しが重要です。ここからは、普段の生活で見直すべき生活習慣を解説します。
バランスの良い食事を摂る
栄養バランスの偏った食事や、脂質や糖質の過剰摂取は、動脈硬化や肥満などのリスクを高め、生活習慣病の症状を進行させます。生活習慣病が改善できれば、EDも改善することが期待できます。 以下を意識し、バランスの良い食事を摂るようにしてください。
- 野菜や果物、魚介類などをバランス良く摂る
- 脂質や糖質の過剰摂取を控える
- アルコールの過剰摂取を控える
野菜や果物に含まれているビタミンやミネラルは、血管の健康を維持するのに役立ちます。また、野菜や果物に含まれている食物繊維は、血糖値の上昇を抑える効果があります。
脂質や糖質の過剰摂取は、動脈硬化や肥満などのリスクを高めるため、控えめにしましょう。アルコールは過剰摂取すると血管を収縮させてしまうため、たしなむ程度に抑えると良いでしょう。
ストレスの軽減に努める
薬剤性EDの改善のためには、ストレスの軽減に努めることも大切です。 ストレスは、勃起をコントロールする神経の働きを低下させ、EDの原因となります。そのため、ストレスを溜め込まないように、適度にリラックスする時間を作ることが大切です。
- 趣味やスポーツなど、ストレス解消法を見つける
- 深呼吸や瞑想などのリラクゼーション法を実践する
- 十分な睡眠を取る
ストレスの軽減には、自分なりのストレス解消法を日常的に実践し、ストレスの原因となっている要因を特定して対処することが大切です。
適度な運動をする
薬剤性EDの改善のためには、適度な運動を心がけましょう。運動することで、血行促進やストレス軽減、体重の減少が期待でき、EDの改善につながります。
血行が促進されると、陰茎への血流も改善されると考えられます。また、ストレスの軽減により、勃起をコントロールする神経の働きの向上が期待できます。さらに、体重減少により、動脈硬化や肥満などのリスクが低減できるでしょう。 ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を実践し、習慣化させましょう。
禁煙する
EDの予防や改善のためには、禁煙することが望ましいです。
タバコには、ニコチンや一酸化炭素などが含まれています。ニコチンは血管を収縮させる作用があり、一酸化炭素は血液中の酸素を減少させる作用があります。そのため、タバコを吸うことで陰茎への血流が減少し、勃起不全につながる恐れがあります。
禁煙により、血管が拡張し血液中の酸素濃度が向上すると、陰茎への血流が改善するため、EDの予防や改善に有効です。 喫煙している方にとって禁煙は容易ではありませんが、禁煙によりEDの改善だけでなく、自身の健康にも役立つことを念頭に置きましょう。
薬剤性ED以外のEDの原因
薬剤性ED以外にも、EDの原因には心因性EDや器質性ED、混合性EDがあります。薬剤性EDに該当しないと思う方は、ほかの原因も探ってみましょう。
心因性ED
心因性EDは、精神的な原因によって引き起こされる勃起不全です。ストレスや不安などの心因的な要因により、脳からの性的刺激を陰茎にうまく伝達できなくなることで起こります。
発症する主な原因として、人間関係のストレスやうつ病、性的なトラウマが挙げられます。 若い男性がEDを発症する場合、心因性EDが多い傾向があります。性行為に対する不安やプレッシャーが原因となることも少なくありません。
器質性ED
器質性EDとは、身体的な原因によるEDです。主な原因は、陰茎への血流が減少すること、勃起をコントロールする神経に障害があることです。
陰茎への血流が減少する原因は、動脈硬化や糖尿病、高血圧などが挙げられます。これらの病気は、血管壁が硬くなり血管が狭くなることで、陰茎への血流が減少します。
神経障害が起こる原因は、糖尿病や脊髄損傷、前立腺がんなどがあります。勃起のための信号を伝達する神経がダメージを受け、EDにつながります。 器質性EDは、心因性EDに比べて比較的年齢の高い男性に多い傾向があります。
糖尿病によるEDについては、「糖尿病とEDの関係とは?引き起こされる仕組みや対処法を解説」でも詳しく解説しています。
混合性ED
混合性EDとは、器質性EDと心因性EDが複合的に絡みあって起こるEDです。 主な原因は、以下のとおりです。
- 加齢による生活習慣病
- ストレスや不安などの精神的な要因
加齢による動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病は、器質性EDの原因となります。また、ストレスや不安などの精神的な要因は、心因性EDを引き起こします。 混合性EDは、EDの原因の中でも多いとされており、比較的年齢の高い40~60代に多いといわれています。
混合性EDの治療には、器質性EDと心因性EDの両方の治療が必要なため、改善に時間がかかるEDといえるでしょう。
まとめ
本記事では、薬剤性EDの原因となりやすい薬や治療方法について解説しました。
薬を服用していてEDの症状がある場合、まずは服用している薬がEDの原因となっているかを医師に診断してもらうことが重要です。EDの原因が薬剤であると診断された場合は、医師と相談しながら疾患の症状や希望にあわせて治療方法を選択しましょう。服用している薬によっては、ED治療薬との併用も可能です。
薬剤性EDは適切な治療を受けることで、症状を改善し、性生活の質の向上が期待できます。現在薬を服用していてEDの症状がある場合は、早めに医師に相談することをおすすめします。
この記事の監修:
慶應義塾大学医学部卒業。日本形成外科学会専門医。 医師免許取得後、株式会社ボストンコンサルティンググループにてヘルスケア・IT領域にて従事。 現在は慶應義塾大学医学部助教、美容医療を主としたJSKINクリニックを経営・監修、オンライン診療サービス「レバクリ」監修。
<所属学会> 日本形成外科学会 日本美容外科学会(JSAPS) 日本乳癌学会