更新日:2024年01月11日
休止期脱毛症とは?治療方法やコロナとの関係性を詳しく解説
- 休止期脱毛症とは、多くの髪の毛が休止期に入ることで起こる脱毛症のこと
- 休止期とは、毛周期の中で、髪の毛の成長が停止する期間のこと
- 休止期脱毛症の原因はストレスや日常生活であると考えられており、AGAとは異なる
- 休止期脱毛症には確固たる治療法はないため、日常生活の見直しが重要
- 休止期脱毛症は、規則正しい生活を送ったり、ストレスを溜めたりしないことで改善する可能性がある
突然髪の毛がたくさん抜け始め、何が原因なのか不安になっている方もいるのではないでしょうか。脱毛が大量に起こる場合は、もしかしたら休止期脱毛症が原因となっているかもしれません。
本記事では休止期脱毛症がどんな脱毛症なのかや、AGAとの違い、治るのかどうかについて詳しく解説します。また、休止期脱毛症と新型コロナウイルス感染後の後遺症の関係についても詳しくお伝えしていきます。
休止期脱毛症とは
まずは、休止期脱毛症が一体どのような状態となる脱毛症なのかを解説します。
毛包の休止期が長引く状態が休止期脱毛症
休止期脱毛症とは、通常よりも多くの毛包が休止期に入り、急激に髪の毛が抜けていく疾患です。休止期脱毛症になると、太くて長い髪が突然多く抜け落ちたり、髪全体が薄くなったり、数カ所だけ急激に髪が抜けたりします。
休止期脱毛症の中でも、6ヶ月以上かけて脱毛が進行するものを、慢性びまん性休止期脱毛症と呼びます。また、6ヶ月以上続く休止期脱毛症は、慢性休止期脱毛症と呼ばれます。
どちらも休止期脱毛症が6か月以上続くという点は共通していますが、慢性びまん性休止期脱毛症の場合は、脱毛症に至る原因がはっきりしていることがほとんどです。慢性びまん成休止期脱毛症の原因となるのは甲状腺疾患や膠原病、慢性腎不全、肝障害、糖尿病などの慢性的な病気や、薬剤性のものであり、これらの原因を解決すると脱毛症が改善するケースが多いです。
対して、慢性休止期脱毛症は原因不明なものが多く、さまざまな治療法を試して改善していく必要があります。
毛周期における休止期とは
休止期とは、髪の毛の生え変わりのサイクルの中で、髪の毛が成長しない期間のことを指します。そもそも、髪の毛は成長期・退行期・休止期という周期を繰り返して生え変わります。
成長期はその言葉のとおり、髪の毛が成長する時期です。成長期では、毛乳頭からの働きかけによって毛母細胞が細胞分裂を行い、髪の毛が成長していきます。日本皮膚科学会によると、成長期の期間は、大体2~6年続くと考えられています。また、頭髪全体の85~90%が、成長期にあるとされています。
しかし、毛母細胞には寿命があるので、永遠に髪の毛を作り続けることはありません。そのため、毛を作り出す仕組みを新しく作り替える必要があります。新しい仕組みを作るためには、一旦髪の毛の成長をストップさせる必要があるため、毛根が委縮します。この過程を、退行期と呼びます。
毛根が委縮し終えたら、次の成長期に備えた準備期間として、髪の毛を作ることを休む期間が始まります。これが休止期で、休止期は2〜3ヶ月続きます。髪全体に対する休止期の割合は、全体の10~20%とされています。
毛周期について詳しく知りたい方は、「ヘアサイクル(髪の毛の周期)とは?オンライン診療でAGA対策を!」も参考にしてみてください。
参考:公益社団法人 日本皮膚科学会「Q1毛が伸びる、または生えかわる仕組みはどのようになっているのでしょうか?」
休止期脱毛症の原因
休止期脱毛症の原因は不明なものもありますが、原因になり得るものもわかっています。休止期脱毛症の原因とされる要素は、次のとおりです。
ストレス
精神的あるいは肉体的なストレスは、休止期脱毛症の原因となる場合があります。
ストレスを受けると、交感神経が優位になります。交感神経が優位となると、血管が収縮するため、毛乳頭細胞への栄養の供給が低下し、休止期脱毛症を引き起こすのではないかといわれているのです。
そのほかに、ストレスによって免疫力が低下して脱毛症を引き起こしている可能性も考えられています。
ただし、日本皮膚科学会によればストレスはあくまで脱毛を引き起こすきっかけの1つであり、直接的な原因ではないとしています。
参考:公益社団法人 日本皮膚科学会「Q11ストレスは円形脱毛症の原因になりますか?」
栄養不足
過度に栄養が不足したり、栄養のバランスが偏ったりすることも休止期脱毛症の原因になると考えられています。
たとえば、過度なダイエットによって栄養が偏ったり、食事を摂らずに栄養が不足したりすると、髪に必要な栄養を充分に摂れなくなります。その結果として、毛周期が乱れてしまい、脱毛の原因になってしまうのです。
病気によるもの
甲状腺に関わる疾患や膠原病といった病気を罹患している人は、病気が休止期脱毛症の原因になっていることが考えられます。
髪の毛が成長するためには多くのホルモンやミネラルが関与していることが分かっています。甲状腺機能低下症、副腎皮質機能不全症や亜鉛欠乏症などに罹患している方は慢性的な休止期脱毛症になるケースがあります。
また、日本皮膚科学会によると、大きな手術や重症な感染症も、毛周期を乱してしまうことから休止期脱毛症の原因になると考えられているのです。
参考:公益社団法人 日本皮膚科学会「Q17他の病気と関連する脱毛はありますか?」
ミノキシジルの影響
男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインによると、ミノキシジルの外用薬を用いた場合、初期に休止期脱毛症が見られたという報告があります。
ミノキシジルによるAGA治療をしていて、脱毛が一向に治まらない、あるいは増えたという場合には、ミノキシジルの影響によって休止期脱毛症が発症している可能性が考えられます。
参考:公益社団法人 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」
出産
出産後に休止期脱毛症になるケースも多く見られます。これは、髪の毛を成長させる女性ホルモンである、エストロゲンが急激に失われるためです。
妊娠しているときは、エストロゲンが大量に分泌されており、出産をすると分泌量が戻ります。このため、妊娠の時期は抜けずに生え続けていた髪の毛が一気に休止期に入って抜け落ちます。抜け毛の量は増えますが、本来の毛量は保たれていることが、大きな特徴です。
休止期脱毛症とAGAの違い
休止期脱毛症とAGAは同じ脱毛症であるものの、、実は明確な違いがあります。AGAと休止期脱毛症の違いは次の3つです。
1.原因の違い
AGAの主な原因となる物質は、男性ホルモンの1つであるテストテロンが、5αリダクターゼによって変換されたジヒドロテストステロンです。
しかし、休止期脱毛症は男性ホルモンとは無関係で、前述したようにストレスや日常生活が大いに関係しているといわれています。
2.脱毛範囲の違い
AGAは、前頭部や頭頂部の受容体にジヒドロテストステロンが結合することで発症します。これ以外の場所では、ジヒドロテストステロンが髪の毛の成長を抑制することはなく、後頭部や側頭部の髪の毛は残る傾向にあります。
しかし、休止期脱毛症は頭部の場所に限らず、広範囲に脱毛が引き起こされます。
3.治療の違い
AGAは、男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版によって治療方法が確立されており、主に飲み薬や外用薬で治療を行います。一方、休止期脱毛症においては、ガイドラインなどがなく、治療法が確立されていないので、医療機関によって治療の内容が異なる可能性もあるでしょう。
AGAのガイドラインについて詳しく知りたい方は、「AGA診療ガイドラインは治療の選択に役立つ?内容と治療の推奨度を解説」も参考にしてみてください。
参考:公益社団法人 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」
休止期脱毛症と新型コロナウイルスの関係
新型コロナウイルス感染症の後遺症の1つに脱毛が報告されていますが、この脱毛は休止期脱毛症との見方が強いとされています。
厚生労働省の資料によると、新型コロナウイルス感染症による脱毛は感染者の4人に1人に見られており、コロナ発症から脱毛出現までは平均58.6日、脱毛の平均持続期間は76.4日と報告されています。
感染による肉体的精神的ストレスや過剰な炎症(サイトカインストーム)の影響によって休止期脱毛症が引き起こされていると考えられています。 新型コロナウイルス感染症への罹患後に脱毛が増えてきたという場合には、休止期脱毛症の疑いも視野に入れて医療機関でチェックしてもらうとよいでしょう。
参考:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の後遺症」
休止期脱毛症の治療方法
休止期脱毛症の治療方法は、前述したように明確な治療補法は確立されていません。そのため、医療機関の受診によって受けられるサポートは日常生活指導です。たとえば、後述する睡眠時間や食事の内容、運動習慣の確立などの指導を専門医から受けられます。休止期脱毛症は日常生活が原因として影響するので、日常生活を見直せば、休止期脱毛症の改善が期待できるとしています。
また、治療薬は確立されていませんが、実は現在休止期脱毛症における治療薬の知見が開始されています。大手製薬会社の1社である大正製薬は、新型コロナウイルス感染症の後遺症による休止期脱毛症の患者の増加を受けて、自社が発売しているミノキシジルでの治験を開始しています。
将来的には、休止期脱毛症における確固たる治療薬が確立されるかもしれません。
休止期脱毛症のセルフケア方法
休止期脱毛症は、ストレスなどが原因の場合があるため、セルフケアをすることが早期回復への近道となります。休止期脱毛症の場合のセルフケア方法は、次のとおりです。
規則正しい生活をする
日本皮膚科学会によると、規則正しい生活は休止期脱毛症のケアに役立つとされています。体に過度な負担がかかることで休止期脱毛症を発症するケースもあります。そのため、体に負担をかけないように過ごしましょう。
また、規則正しい睡眠は成長ホルモンの分泌を促し、髪の成長を促します。成長ホルモンの分泌量は、午後10時から午前2時に最大になるとされているため、この時間にはしっかりと睡眠をとるように心がけましょう。 ほかにも、運動は血液循環を良好にし発毛を促進させるため、運動習慣がない人は日常生活に運動を取り入れてみましょう。
ストレスをためない
ストレスは、ため込まないように適度に発散しましょう。
ストレスの発散方法は人それぞれなので、自分に合った方法で発散することが大切です。ストレス発散方法がないという方の場合、今自分が抱えているストレスとなる事柄を誰かに話すだけでもストレス解消につながるため、おすすめです。
バランスのとれた食事を摂る
バランスのとれた食事は、休止期脱毛症のケアとしておすすめです。髪の毛の新陳代謝には各種のビタミン、ミネラルが関係しているため、バランスのとれた食生活を心がけることで、脱毛症の改善が期待できます。
日本皮膚科学会によると、休止期脱毛症は過激なダイエットがきっかけになることもあるようです。食事を無理に抜くなどのダイエットは避け、バランスのとれた食事の摂取を心がけましょう。
参考:公益社団法人 日本皮膚科学会「Q17他の病気と関連する脱毛はありますか?」
休止期脱毛症の自然治癒は期待できる?
休止期脱毛症は半年から1年かけて徐々に回復することが多いですが、1年経っても回復しないケースもあります。
セルフケアを実践していたにもかかわらず、1年経っても回復しない場合には、休止期脱毛症ではなくほかの脱毛症である可能性が考えられます。 1年経っても休止期脱毛症が改善しないという場合には、一度脱毛症の治療を専門的に行う医師が在籍する医療機関を受診して相談すると良いでしょう。
まとめ
毛周期の乱れによって休止期が長くなることで起こる休止期脱毛症は、太くて長い毛が急激に抜け落ちてしまう脱毛症です。ストレスや日常生活が原因とされていますが、最近では新型コロナウイルス感染症に罹患した方の4人に1人が感染症によるストレスや炎症反応によって休止期脱毛症になっているといわれています。
休止期脱毛症はAGAと異なり、男性ホルモンが原因ではないということもあり、現在のところ確固たる治療法はありません。日常生活を見直したり、ストレスを適宜発散したりして、休止期脱毛症の改善に努めるのが大切です。
この記事の監修:
慶應義塾大学医学部卒業。日本形成外科学会専門医。 医師免許取得後、株式会社ボストンコンサルティンググループにてヘルスケア・IT領域にて従事。 現在は慶應義塾大学医学部助教、美容医療を主としたJSKINクリニックを経営・監修、オンライン診療サービス「レバクリ」監修。
<所属学会> 日本形成外科学会 日本美容外科学会(JSAPS) 日本乳癌学会