更新日:2024年02月15日
AGA診療ガイドラインは治療の選択に役立つ?内容と治療の推奨度を解説
- AGAの治療は「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」に則って行われる
- AGA診療ガイドラインにおける治療の推奨度は、高い順にA・B・C1・C2・Dで分類される
- 推奨度Aの治療法は、フィナステリド、デュタステリドの服用など
- 推奨度Bの治療法は、自毛植毛やレーザー治療など
- 推奨されない治療法は、ビマトプロストの外用やミノキシジルの内服など
医療機関でAGA治療をするときに、医師たちが参考にしているのがAGA診療ガイドラインです。AGA診療ガイドラインはWeb上で読むことができ、自身のAGA治療がどのようなものなのかを詳しく確認することができます。ただ、専門用語が多く、一般の方には読みにくい部分もあるかもしれません。そこで本記事では、AGA診療ガイドラインの内容について分かりやすく解説していきます。
AGA診療ガイドラインとは
AGA診療ガイドラインの正式名称は「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」です。このガイドラインは公益社団法人日本皮膚科学会が公開しているもので、多くの医療機関がこのガイドラインに沿って治療を進めています。
ガイドラインの内容
AGA診療ガイドラインの内容は、主に以下の4つで構成されています。
- AGAの病態概念
- 病態
- 診断方法
- 治療について
AGAがどのような疾患なのかの解説から始まり、AGAの原因や診断方法、治療方針や治療の推奨度などがまとまっています。これらの内容を、ガイドライン作成委員会である皮膚科分野のスペシャリスト17名が参画してまとめあげており、総ページ数は15ページほどです。
ガイドラインが作成された目的
近年、AGA治療およびAGA治療薬は世界で目覚ましい発展を遂げており、日本でもAGA治療を提供する医療機関が増えてきました。その一方で、医学的根拠のない民間療法が横行しているという実情もあり、無効な治療、あるいはリスクのある治療を知らず知らずに受けている方も増えています。
この現状を解消するために、治療の指標を定める必要性が議論され、日本皮膚科学会と毛髪科学研究会によってAGAの診療ガイドラインが作成されました。AGA診療ガイドラインができたことで、皮膚科医にとっても治療の根拠が明確になり、患者さんに必要な医療を的確に提供できるようになっています。
AGA診療ガイドラインの2022~2023年版はない
AGA診療ガイドラインは、毎年発表されるわけではありません。2023年10月現在は2017年に発表された「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」の第2版が最新版となっており、これ以降のガイドラインは存在しません。
AGA診療ガイドラインの推奨度別治療法
AGA診療ガイドラインでは、臨床研究の結果におけるエビデンスの強さをもとに、治療の推奨度をA〜Dで表しています。Aが最も推奨される治療法で、AGAに対して高い治癒効果が見込めます。ここでは、AGA診療ガイドラインの推奨度別に、AGAの治療方法を紹介していきます。
推奨度Aの治療法
推奨度Aは、“少なくとも1つの有効性を示すレベルI、もしくは良質のレベルIIのエビデンスがある”ことが認められており、治療を強く勧めるものです。そのため、AGAの治療について相談した際に、第一の選択肢として挙げられる治療法です。推奨度Aの治療法は次の2つです。
フィナステリド
フィナステリドは、薄毛の原因となるジヒドロテストステロンが生成されるときに関与する酵素、5αリダクターゼの活動を阻害し、薄毛の改善を目指す薬です。5αリダクターゼは、後頭部や側頭部に発生しているI型と、前頭部や頭頂部に発生しているII型に分けられ、フィナステリドは5αリダクターゼII型に作用します。AGAは、主に前頭部や頭頂部に発症するため、II型のみに作用するフィナステリドが選択されることが多いです。
薬品名は、先発薬がプロペシア、後発薬がフィナステリドです。プロペシアは世界で初めてAGA治療薬として発売され、日本では2005年10月に厚生労働省の認可が下り、医療機関で使用されるようになりました。
AGAガイドラインでは、服用開始後48週間で、1mg/日を服用した場合58%、0.2mg/日を服用した場合54%で軽度改善以上の効果がみられました。さらに1mg/日の内服を2年間および3年間継続する調査では、軽度改善以上の効果がそれぞれ68%、78%みられると報告しています。特に、40歳未満での症例や重症度が低い症例で高い効果を示しています。
副作用には、勃起機能不全・射精障害・精液量減少・リビドー減退などの性機能の低下がありますが、発症頻度は1~5%程度です。ほかの薬品に比べると副作用の発症頻度が低く、安全性についてはある程度担保されているといえるでしょう。
フィナステリドについては、「フィナステリドの効果とは?副作用や服用時の注意点についても説明」でも詳しく解説しています。
デュタステリド
デュタステリドもフィナステリドと同様に、5αリダクターゼの活性を阻害し、AGAの改善を目指す治療薬です。薬品名は、先発薬がザガーロ、後発薬がデュタステリドです。
デュタステリドは、5αリダクターゼI型およびII型のどちらの型も阻害できる点が特徴です。頭部全体の薄毛が気になる、後頭部の薄毛が気になるという方には、デュタステリドが処方されることが多いでしょう。
副作用はフィナステリドと同様に、勃起機能不全・射精障害・精液量減少・リビドー減退などの性機能低下があります。発症頻度としては約17%程度と、フィナステリドと比べると副作用が出現しやすい点に注意してください。
デュタステリドについて詳しく知りたい方は、「デュタステリド(ザガーロ)が効かないと感じる原因は?対処法も解説」も参考にしてみてください。
参考:医薬品医療機器総合機構「ザガーロカプセル 製造販売承認申請書添付資料」
ミノキシジル
ミノキシジルは、AGA診療ガイドラインの推奨度Aの治療薬のうち、唯一の外用薬です。ミノキシジルはもともと海外で経口降圧薬として使用されていましたが、副作用により、多毛症を発症する患者がいたことを受けて、AGAの治療薬として取り入れられました。
ミノキシジルを患部に塗布することで、頭皮の血行を促進し、頭皮の環境が整えられます。これにより、発毛を促す作用が期待できます。AGAガイドラインによると、2%濃度のミノキシジルを使用した場合、使用しなかった被験者と比べて、24週間後に平均20.90本の発毛差が確認されたと報告されています。
ミノキシジルの副作用には、瘙痒(そうよう=痒み)・落屑(らくせつ=フケ)・紅斑・毛包炎・接触皮膚炎・顔面の多毛などがあります。
ミノキシジルについて詳しく知りたい方は、「ミノキシジルの効果とは?副作用や他のAGA治療薬との違いも解説」も参考にしてみてください。
推奨度Bの治療法
推奨度Bの治療法は、“少なくとも1つ以上の有効性を示す質の劣るレベルIIか良質のレベルIII、あるいは非常に良質IVのエビデンスがある”ことが認められているものです。推奨度Aの治療に効果がなかった場合や、推奨度Aの治療を継続するのが難しい場合に提案されることが多いでしょう。推奨度Bの治療法は、次の3つです。
自毛植毛
自毛植毛とは、自分の毛を植毛する治療法です。前頭部や頭頂部の薄毛に対して、側頭部や後頭部から患者自身の髪の毛を採取して植毛します。実証実験などは行われていないものの、AGAガイドラインによると、2015年度において、世界全体で39万7,048件の自毛植毛が行われています。生着率も82.5%以上と、非常に高い効果が見込めます。
ただし、自毛植毛には高い水準の安全性が求められることから、安全性を担保できない場合は実施すべきでないと、ガイドラインには記されています。治療を受ける際は、自毛植毛を専門に扱うクリニックなどを受診することをおすすめします。
レーザー治療
レーザー治療は、低出力のレーザーを照射し毛母細胞を刺激することで、発毛を促す治療法です。AGAガイドラインによると、低出力レーザーを週3回照射して26週間の経過観察をしたところ、照射前に比べ毛髪数は19.8本/cm²増加したとされています。
レーザー治療の副作用は、照射部における皮膚の乾燥が5.1%、掻痒感が2.5%、圧痛が1.3%、ひりひり感が1.3%、熱感が1.3%。比較的副作用の発生確率は低いといえます。
ただし、ガイドラインの作成時点では、日本ではレーザー治療に使用する機器の承認がされていません。さらに、報告されている臨床試験では、光源の種類や波長、出力が全て統一されていないことから、AGAガイドラインの推奨度はBとされています。
アデノシン
アデノシンは、外用することで血行促進作用と毛母細胞の活性作用が期待できる治療薬です。AGAガイドラインによると、0.75%アデノシン配合ローションを使用した臨床実験の結果、6ヶ月間のローション使用にて、80.4%の被験者の薄毛が中等度以上改善したとしています。
副作用がほぼなく、有効性を示す十分な根拠がありますが、ガイドラインの作成時点では、女性への有効性を示す臨床試験が不十分なため、アデノシンの推奨度はBとなっています。
推奨度C1の治療法
推奨度C1の治療法は、“質の劣るIII~IV、良質な複数のV、あるいは委員会が認めるVIのエビデンスがある”ことが認められたものです。推奨度Cの治療法は数多くあるため、以下では薬剤による治療法へ絞って解説します。
カルプロニウム塩化物
カルプロニウム塩化物は、強い血管拡張作用により血行を促進しながら、毛乳頭へ血流を送り込んで栄養を与え、発毛を促進させる成分です。医薬品としては、フロジンやカルプロニウム塩化物、アロビックスなどの名称で販売されています。
副作用は、一過性の発赤・掻痒感にくわえ、刺激痛・局所発汗・熱感などもみられます。さらに、血管拡張に伴う副作用として、全身性の発汗・それに伴う悪寒・戦慄・嘔気・嘔吐などもみられるようです。カルプロニウム塩化物については、有用性が十分に実証されていないことから、推奨度が低くなっています。
参考:KEGG MEDICUS「医療用医薬品:フロジン」
t-フラバノン
t-フラバノンは、日本の大手化粧品メーカーの花王が独自で開発した育毛成分です。花王のホームページによると、西洋オトギリソウの中のアデノシンという成分が毛母細胞を増殖促進する高い作用があることをつきとめ、外用治療薬として開発したそうです。
t-フラバノンにより、脱毛因子の抑制や毛母細胞の活性化させることができ、抜け毛を防いで髪の成長を促せるとしています。ただしAGAガイドラインでは、効果を示す根拠が非常に弱いことや、抜け毛の改善率が70〜75%とほかの治療法と比較して低いことから、推奨度をCとしています。
参考:花王「育毛成分t-フラバノン」
サイトプリンおよびペンタデカン
サイトプリンおよびペンタデカンは、日本の生活用品メーカーのLIONが独自開発した成分です。患部に塗布することで毛髪の成長に必要なタンパク質を生成し、髪の成長を促します。
副作用のリスクは低いものの、有用性を示す臨床データが十分にないことから、推奨度はCとなっています。
参考:LION「薬用毛髪力 イノベート」
ケトコナゾール
ケトコナゾールは抗真菌薬で、本来は水虫の治療で使われる治療薬です。ケトコナゾールは、AGA治療においてはシャンプーに混ぜて使用することが推奨されており、これによって頭皮環境を整え、育毛を促します。しかし、有用性についてはまだまだ検証が必要なことに加え、日本ではAGA治療薬としての認可が下りていないことから、推奨度はCとなっています。
ケトコナゾールについて詳しく知りたい方は、「ケトコナゾールとは?効能効果やシャンプーの使い方について解説」も参考にしてみてください。
AGA診療ガイドラインで推奨されない治療法
AGA診療ガイドラインでは推奨できる治療法だけでなく、推奨できない治療法も発表しています。
推奨度C2の治療法は次のとおりです。
推奨度C2の治療法
推奨度C2の治療法は、“有効のエビデンスがない、あるいは無効であるエビデンスがある”ことから、治療に適していないとされているものです。推奨度C2の治療法は次の2つです。
ビマトプロストおよびラタノプロストの外用
ビマトプロストとラタノプロストは、もともと緑内障や高眼圧症治療に用いられている治療薬です。点眼をしていた患者さんのまつ毛の発毛が促進されたことから、発毛促進効果が期待され、外用のAGA治療薬への応用が検討されています。
臨床試験では、ラタノプロストを使用し24週間観察をしたところ、50%の方に改善効果が見られたとしています。しかし、外用する場合の安全性が確認されていないため、推奨度はC2となっています。ビマトプロストも発毛効果を推進する可能性はあるものの、臨床試験での検証がなされていないため、推奨度はC2とされています。
成長因子導入および細胞移植療法
毛誘導能をもつ間葉系細胞の直接移植、もしくはその分泌物を含む培養上清を患部に注入することで、発毛促進効果を期待する治療法です。
この治療は限られた施設でしかできず、先進医療の分野となっています。また、安全性の検証も十分に行われておらず、一般の人に治療を提供することが現実的ではないため、推奨度がC2となっています。
推奨度Dの治療法
推奨度Dの治療法は、“無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがある”ことから、治療を行うべきでないものです。推奨度Dの治療法は、ミノキシジルの内服となっています。
ミノキシジルは、世界のどの国でも、内服のAGA治療薬としては承認されていません。多毛症が発現するものの、副作用として胸痛・心拍数増加・動悸・息切れ・呼吸困難・うっ血性心不全・むくみといった、心血管に重度な疾患を及ぼす可能性が示唆されています。このことから、治療効果よりも危険性が高く、治療法としては推奨されていません。
また、多毛症の発現という作用に着目して、ミノキシジルを個人輸入などして内服する例が多くあり、問題視されている治療薬でもあります。
まとめ
AGA治療薬にはさまざまな種類がありますが、AGA診療ガイドラインによる推奨度は異なります。もしもAGA治療を受けるのであれば、AGA診療ガイドラインを参考に、どの薬剤を使うべきか確認しておくことで、安全な治療薬を選択できるでしょう。AGA診療ガイドラインの内容を踏まえ、安心・安全な治療を受けるようにしてください。
参考:公益社団法人 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017 年版」